ネザードラム

文章と図解でアプローチするドラムブログ

楽器の演奏と練習と脳の発達

(2024.04.22更新)

 

楽器の演奏は脳に良い?

「楽器を演奏することは脳に良さそう」

多くの人がこういったイメージをなんとなく持っていると思います。

 

たとえば

・楽譜の読み書き

・体や指を正確に動かす練習

・ストレス軽減、リラックス、達成感などを得られる

こういったことを通じて脳や健康にポジティブな効果を得られそうなイメージがあると思います。

 

この記事ではさらに詳しく「楽器演奏で脳に何が起こっているのか?」

理解を深めていきたいと思います。

※注記

筆者は医療の専門家ではなく、一般的な知識や資料調査に基づいてこの記事を書いています。個別の医療アドバイスを提供するものではありません。

 

〈結論〉

多くの研究では楽器演奏を行うと脳が活発になり、

脳のいろんな部分が連携して情報処理が行われ、脳の発達が促進されると考えられています。

 

認知能力の向上・非認知能力の向上・認知症の予防

セラピー的な効果なども期待できます。

 

脳は学習と経験で変化し、脳が変化できる能力を「可塑性」と呼びます。

長期間の演奏トレーニングで可塑性が高くなり

神経回路のつながりが増えたり、機能が向上していくことも多くの研究で示されています。

 

ただし脳の活動には個人差があり

練習の方法や量、演奏スタイルなども脳に影響を与える要素として考慮する必要があります。

音楽と脳の観察

fMRIでの脳観察

2000年代に入ってfMRIの技術が進歩し、様々な行動に対する脳の観察が行われました。

fMRIとは

脳の活動を観察するための機器で、脳内の酸素の変化をもとに活動した部位を調べることができ、研究や医療の現場で使われています。

 

たとえば

読書をしたときには脳の言語に関する部分が活発に、

数学の問題をといているときは数字に関する部分が活発に、

カラーマップ上で視覚的に観察されます。

 

音楽を聴いたときには

脳の複数の範囲のカラーマップが明るくなり脳全体が活発になることも観察されていて

音楽は

聴覚処理、情報処理、運動制御、記憶、言語処理などと関連があるといわれています。

 

そして楽器を演奏しているときには、さらに脳が活発になることも観察されています。

・左右の手を使って練習する

・音楽を聴きながら身体を動かす

・音楽と言語を組み合わせて学ぶ

 

こういったことから左脳と右脳を結ぶ、脳梁というところも活発になり、

脳全体で連携して効果的な発達が期待できるといわれています。

楽器を演奏するときの脳のはたらき

演奏で脳がより活発になるのは

認知・運動・感覚などの情報処理を同時に行うためです。

 

たとえば

・楽譜や楽器や指示を見る (視覚)

・音楽を聴いたり、自分の音に注意を向ける (聴覚)

・体や指を正確に協調させて動かす、空間認知する (運動)

・一旦おぼえて演奏する (ワーキングメモリ)

・アドリブ演奏、バンドメンバーとの相互反応 (表現、創造性)

 

文字にすると堅苦しいですが

演奏する人の脳内ではこんなに複雑なことが統合されて演奏が成り立っています。

楽器の練習で脳はどう発達する?

脳を鍛えるのは得意なこと?苦手なこと?

新しいことを学んで脳は発達しますが

得意なことを学ぶときと、苦手なことを学ぶときでは

どちらがより大きく発達するのでしょうか?

また、発達の仕方に違いはあるでしょうか?

楽器の練習では、脳はどう発達するでしょうか?

 

・得意なことに取り組む

既に発達している脳の領域を強化することになります。

 

苦手なことに取り組む

新たな脳の経路を作り、未開発の能力を発達させることになります。

アウェーの経験も脳を鍛える

一般的には得意なことを学ぶときには

こつこつ繰り返し練習したり、研究を深めることがおもしろく娯楽化しやすいので

自然に抵抗なく学べることが多くなります。

 

ところが苦手なことに取り組むのは

挫折感を味わうことも増えるので億劫になりがちです。

しかしそれによって脳が鍛えられる側面もあります。

 

難しい課題をクリアできないとき、

悔しい、恥ずかしい、プライドが傷つく

自分のことをみっともないと感じてしまうこともあるかもしれません。

 

幼児のころを振り返ってみると

何もできなかったけれど、なんでもさらけ出せてしまう万能感もありました。

日々、急激な成長をしていた時期でもあります。

 

歩けるようになったばかりの1歳ぐらいの子供を観察してみると

社会的には何もできないに等しい状態でも、トコトコトコ。。。と、どこへでも突き進んでいきます。

また少し話せるようになると、どんな質問でも投げかけてきます。

1歳のころの何もできなかった自分こそが成長する自分でもあり、

アウェーな状況に立てばよちよち歩きの自分に戻って、脳が成長できる側面もあります。

 

得意なことと、苦手なこと。

両方の取り組みがバランスよく組み合わさることで

脳の多くの領域でネットワークが成長して

柔軟性や認知能力、創造性が発達して、総合的な学習力がアップするとされています。

ただし、

興味や向き不向きを尊重しながら、学びの楽しさを忘れないでいることが重要です。

ドラム練習、楽器練習をとおしての脳の発達

楽器の練習ではたくさんのことを同時に要求されるので、脳の様々な領域を刺激して発達させる効果があるといわれています。

 

・音響処理能力と注意力

楽器の練習では、音の高さ、音色、リズムに注意を向けます。

これにより脳の音響処理能力や注意力がアップします。

 

・運動制御

楽器の演奏では体や指を正しいタイミングで合わせながら動かします。

こういった練習を繰り返すことで、脳の運動制御が正確になったり柔軟になります。

 

・記憶力

楽譜や曲の構成をおぼえなくてはならない場面では

これを覚えようと努めることで記憶領域が活性化して、脳内で情報をキープしたり再生する能力がアップします。

 

・感情の制御、ストレス軽減

演奏は感情と密接に関わっていて、感情を表現する一方、感情を抑制する場面もあります。

集中や没入によって神経回路が活発になって、ポジティブな感情やリラックスを得られることがあったり

演奏がうまくできるとドーパミンが放出されて満足感が得られます。

 

 

楽器演奏の練習ではたくさんのことの組み合わせで脳がフル回転します。

これは演奏技術に関係なく

初心者も上級者も、「その人なりの脳みそフル回転」です。

これによって年代にも経験にも関係なく、

脳のいろんなところが鍛えられて発達が促され、認知症の予防にまで効果があると考えられています。

私のドラムレッスンでは

私が行っているドラムレッスンではスクール生共通のカリキュラムも用意していますが

時々、生徒さん自身が課題を決めて、

目標を設定したり、進捗を確認するなど、自分で意思決定する場面をもうけています。

 

進捗や目標達成を確認することで満足度が得られ、学びが進みやすくなったり

ときには自制心が必要になる場面もあり

ホームとアウェーの学びがバランス良く含まれると考えています。

 

また、意思決定を重ねながら学んでいくことで、非認知能力が伸びることにもつながります。

非認知能力とは

誠実性・やりぬく力・自己制御・クリティカルシンキングメタ認知・逆境をしなやかに生きる力

など数値で計れないけど人生に良い影響を与える能力です。

こちらの記事に詳しく書いてあります。

netherdrum.hatenablog.com

 

ドラムの演奏では正解がないことも多々あります。

 

ある程度のルールもありつつ、いろんな状況のなかで

もし自分に出来ることが限られていても、

それをレゴブロックのように組み合わせてイデアを生み出すような場面が

思考力・判断力・表現力をのばすことにもつながっていると考えています。

 

そのために

生徒さんが受け身にならないよう常に対話し、意見交換したり

生徒さんが提案してくれる突拍子もないアイデアを肯定して試してみたり、

ドラム以外の活動にもクリエイティブな波及が広まるように、遊び心を育てることを重要視しています。

まとめ

楽器を演奏すること、練習することは多くの研究で「脳の発達を促進する」とされている

 

見る・聴く・運動する・覚える・考える・感じる・ひらめく

 

楽器演奏や練習では多くの活動が組み合わさっていて

この中には得意なことも苦手なことも同時に含まれていることも多く、脳がたくさんの領域で連携してはたらく。

これによって神経回路が増えたり成長して、脳の発達が促進されるといわれています。

 

(参考)

楽器演奏のトレーニングと脳の発達に関する研究は数多く存在しますが

たとえばこのような有名な研究があります。

・ゴットフリート・シュライヒター「音楽と脳」

・ニーナ・クラウス「音楽の訓練が脳の発達に及ぼす影響」

・エリック・ハナー「音楽のトレーニングと言語処理能力の関係」

 

以上、この記事がお役に立ちましたら幸いです。